変革事例図鑑

事例から学ぶ、多様な専門職を抱える大企業におけるジョブ型雇用と柔軟な働き方の両立戦略

Tags: 働き方改革, 大企業, ジョブ型雇用, 柔軟な働き方, 人事戦略

はじめに:大企業における新しい働き方とジョブ型雇用の潮流

近年、多くの大企業で働き方改革が進められています。特に、働く場所や時間の柔軟性を高める「柔軟な働き方」の導入は、生産性向上や従業員のエンゲージメント向上、多様な人材の確保といった面で重要な取り組みとなっています。一方で、専門性や成果に基づいて評価を行う「ジョブ型雇用」への関心も高まっており、グローバル競争力の強化や、多様なスキルを持つ人材の活用を目指す企業が増えています。

しかし、大規模組織において、従業員の職種や働き方が多様化する中で、この「ジョブ型雇用」と「柔軟な働き方」という、一見すると異なる特性を持つ二つの概念をどのように両立させ、組織全体の変革へと繋げていくかは大きな課題です。硬直的な職務定義と、柔軟な働き方の自由度が衝突するのではないか、成果評価の公平性をどう担保するのか、部署や職種ごとのニーズにどう対応するのか、といった懸念も聞かれます。

本記事では、多様な専門職を抱えるある大企業が、この課題にどのように取り組み、ジョブ型雇用と柔軟な働き方の両立を実現したのか、その具体的な事例を通して、導入プロセス、直面した課題、そしてそれを乗り越えるための戦略について詳しく解説します。この事例から得られる学びは、同様の課題に直面する多くの大企業にとって、働き方改革を推進する上での重要な示唆となるでしょう。

事例企業の概要と導入前の課題

今回ご紹介する事例企業は、国内外に複数の拠点を持ち、研究開発職、ITエンジニア、企画・営業職、コーポレート部門など、非常に多様な専門職を抱える従業員数1万人規模の大企業です。伝統的に年功序列とメンバーシップ型雇用を基盤としており、働き方については比較的硬直的な運用がなされていました。

導入前、この企業が抱えていた主な課題は以下の通りです。

導入目的と具体的な取り組み内容

これらの課題を克服し、持続的な成長を実現するため、この企業は「多様な専門性の最大化と、自律的な働き方による生産性向上」を目的として、ジョブ型雇用と柔軟な働き方を包括的に導入するプロジェクトをスタートさせました。

具体的な取り組み内容は多岐にわたりますが、特に重要な点を以下に挙げます。

1. ジョブ型雇用の設計と導入

2. 柔軟な働き方制度の拡充と推進

3. ジョブ型と柔軟な働き方を繋ぐ施策

直面した課題と克服策

導入プロセスにおいては、大規模組織ならではの様々な課題に直面しました。

導入効果と成功要因

これらの取り組みの結果、企業は以下のような効果を実感しました。

この事例の成功要因として、以下の点が挙げられます。

他の組織への示唆

この事例から、多様な専門職を抱える大企業がジョブ型雇用と柔軟な働き方の両立を目指す上で、いくつかの重要な示唆が得られます。

まず、「なぜ、ジョブ型と柔軟な働き方を導入するのか」という目的を明確にすることが極めて重要です。単に流行に乗るのではなく、自社の経営戦略や人材戦略と紐づけ、どのような課題を解決し、どのような状態を目指すのかを言語化し、共有する必要があります。

次に、多様な職種や部署のニーズを十分に把握し、一律ではないアプローチを検討することです。全ての職務に同じ職務定義や評価方法を適用するのは現実的ではありません。職務グループや部署の特性に合わせて、制度の運用方法や柔軟性の度合いを調整することが成功の鍵となります。現場の代表者や専門家を巻き込んだプロジェクトチームを組成し、現場の声を設計に反映させることが不可欠です。

さらに、制度設計と並行して、マネジメント層と従業員の意識改革、および必要なスキル習得を支援することが不可欠です。新しい働き方や評価制度は、働く人々の意識や行動の変化を伴います。特にマネージャーは、従来の「管理」から「支援・育成」へと役割が変化するため、体系的な研修や継続的なフォローが重要となります。

最後に、導入は一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスであると認識することです。社会情勢や技術は常に変化します。導入後も定期的に制度の運用状況や効果を測定し、従業員からのフィードバックを収集しながら、必要に応じて改善を続けていく姿勢が求められます。特に効果測定においては、単にリモートワークの利用率だけでなく、生産性、エンゲージメント、採用力、離職率など、当初目的とした指標を追跡することが重要です。

まとめ

本記事では、多様な専門職を抱える大企業が、ジョブ型雇用と柔軟な働き方を両立させた事例をご紹介しました。この事例は、大規模組織においても、明確な目的意識を持ち、多様なニーズに応じた柔軟な制度設計を行い、マネージャー育成と文化変革に注力することで、二つの働き方を成功裏に組み合わせることが可能であることを示しています。

ジョブ型雇用と柔軟な働き方の両立は、単なる人事制度の変更に留まらず、企業の組織文化やマネジメントスタイル、働く人々の意識そのものを変革する挑戦です。この変革を通じて、企業は多様な人材の能力を最大限に引き出し、変化の激しい時代においても持続的な成長を実現していくことができるでしょう。

自社での働き方改革を推進される中で、特に多様な働き方やジョブ型雇用の導入・運用に課題を感じている人事担当者や経営企画部門の皆様にとって、本事例が具体的な戦略や課題克服に向けたヒントとなれば幸いです。重要なのは、自社の状況に合わせてこれらの要素をどのように組み合わせ、どのように現場に浸透させていくかという実行プロセスにあることを忘れずに、一歩ずつ着実に変革を進めていくことです。