事例:大規模組織が従業員参画型プロセスで実現した働き方改革 - 推進体制構築と現場巻き込みのアプローチ
新しい働き方の導入は、組織全体の生産性向上や従業員エンゲージメント強化に不可欠な取り組みです。特に大規模組織においては、多様な部署や職種、価値観を持つ従業員が存在するため、画一的な施策だけでは十分な効果が得られないことがあります。全社的な変革を成功させるためには、トップダウンの推進に加え、現場の声を吸い上げ、従業員一人ひとりが「自分事」として改革に参画する仕組みを構築することが重要となります。
本記事では、大規模組織が従業員参画型のプロセスを通じて働き方改革を推進し、その推進体制を構築し、現場を効果的に巻き込んだ具体的な事例を紹介します。
事例概要:従業員参画を核とした働き方改革推進
ある大規模サービス企業(従業員数:約2万人、多事業・多拠点展開)では、従来のトップダウン型施策だけでは働き方改革が一部の部署に留まり、全社への浸透が進まないという課題に直面していました。特に、現場のリアルなニーズや潜在的なアイデアが施策に反映されにくく、従業員の改革への当事者意識が低いという問題がありました。
そこで同社は、働き方改革を「会社が提供するもの」ではなく、「従業員と共に創り上げていくもの」と位置づけ、従業員参画を核とした推進体制への転換を図りました。
導入前の課題と目的
- 課題:
- 働き方改革施策がトップダウン中心で、現場の実態に合わないケースが見られる。
- 多様な部署・職種の固有の課題やニーズが十分に吸い上げられていない。
- 従業員の改革への関与度が低く、「やらされ感」がある。
- 一部の先進的な部署以外での変化が遅い。
- 改革の成果が全社的に波及しにくい。
- 目的:
- 従業員一人ひとりが働き方改革の主体となり、自律的に改善に取り組む文化を醸成する。
- 現場のリアルな課題に基づいた、実効性の高い施策を生み出す。
- 多様な働き方の選択肢を増やすことで、従業員のエンゲージメントと生産性を向上させる。
- 全社的な改革への納得感と受容度を高め、変化を加速させる。
具体的な取り組み内容とプロセス
同社が実施した主な取り組みは以下の通りです。
-
全社横断「働き方改革推進委員会」の設置と再定義:
- 従来の役員・部門長中心の推進委員会を再編成し、各部門・職種の代表者、若手・中堅層、そして一般従業員からの立候補者を加え、多様な視点を持つメンバーで構成しました(約50名)。
- 委員会は単なる意思決定機関ではなく、従業員からの意見集約、施策検討、現場への働きかけを行う実働部隊としての役割を強化しました。
-
「ボトムアップ型アイデア創出プログラム」の実施:
- 全従業員を対象に、日々の業務における非効率な点や「もっとこうなれば良い」という働き方に関するアイデアを広く公募しました。
- 応募されたアイデアは、推進委員会メンバーや選抜された現場従業員によるワーキンググループが評価・選定しました。
- 有望なアイデアについては、提案者自身が推進委員会のサポートを受けながら実現可能性を検討し、プロトタイプ開発や小規模なトライアルを行う機会を提供しました。
-
「働き方に関する対話会(タウンホールミーティング)」の定期開催:
- 事業部ごと、あるいはテーマ別に、経営層や推進委員会のメンバーが参加する対話会を定期的に開催しました。
- 従業員は日頃感じている課題や意見を自由に発言し、経営層や推進メンバーと直接対話できる場を設けました。オンラインツールも活用し、多拠点からの参加を促進しました。
-
「部署・チーム単位での働き方改善ワークショップ」の実施支援:
- 各部署やチームが、自らの業務特性に合わせた働き方改善目標を設定し、具体的なアクションプランを策定・実行するためのワークショップツールやファシリテーターを提供しました。
- 推進委員会メンバーが各部署に出向き、伴走支援を行いました。成功事例は全社で共有しました。
-
推進事務局機能の強化:
- 人事部内に設置された推進事務局の体制を強化し、上記のプログラム運営、従業員からの問い合わせ対応、各部署への情報提供、成功事例の収集・発信、効果測定のデータ収集・分析などを担いました。
- 事務局は、推進委員会と現場をつなぐハブとしての役割を果たしました。
直面した課題と克服策
-
課題1:多様な意見の集約と施策への反映の難しさ
- 大規模ゆえに意見の数が膨大になり、全てを検討・反映することが物理的に困難でした。また、意見の中には相反するものもあり、調整に時間を要しました。
- 克服策: 意見をテーマ別、部署別に分類・構造化し、優先順位付けの基準を明確にしました。全てのアイデアをすぐに施策化するのではなく、実現可能性や影響度を評価し、スモールスタートやパイロット導入から始めるなど、段階的なアプローチを取りました。また、なぜそのアイデアが選ばれたのか、あるいは選ばれなかったのかについて、提案者や従業員全体に丁寧にフィードバックする仕組みを構築し、透明性を高めました。
-
課題2:一部部署・従業員の改革への無関心や抵抗
- 特定の業務特性を持つ部署や、変化を好まない従業員からは、アイデアが出なかったり、参加に消極的であったりしました。
- 克服策: 強制ではなく、まずは働き方改革の「メリット」を個々の従業員や部署にとって具体的に示すことに注力しました(例:業務効率化による残業削減、柔軟な働き方によるプライベート充実など)。また、ワークショップなどを通じて、自分たちの手で小さな改善から成功体験を積めるような機会を提供しました。一部の成功事例を積極的に社内報などで発信し、「自分たちにもできるかも」という雰囲気を醸成しました。推進委員会メンバーがロールモデルとなり、積極的に対話する姿勢を見せました。
-
課題3:推進体制内の連携不足と推進力の低下
- 推進委員会メンバーが本業と兼務しているため、活動時間が十分に確保できなかったり、メンバー間の情報共有や連携が不足したりすることがありました。
- 克服策: 定期的な定例会に加え、オンラインでの情報共有ツールやプロジェクト管理ツールを導入し、非同期での連携を強化しました。推進事務局が各メンバーの活動をサポートし、必要な情報提供やタスク管理を行いました。また、推進活動を人事評価の項目に一部反映させることで、メンバーのモチベーション維持とコミットメント向上を図りました。
導入効果と成功要因
従業員参画型プロセスへの転換後、同社では以下のような効果が見られました。
-
効果:
- 従業員の働き方改革への関心度、納得感、当事者意識が大幅に向上しました(全社アンケートで肯定的な回答が20%増加)。
- 現場の課題に基づいた、実効性の高いアイデアが多数生まれ、年間〇件の業務改善施策に繋がりました。
- 一部部署では、ワークショップを通じて自律的に残業時間〇%削減、有給休暇取得率〇%向上といった具体的な成果を達成しました。
- 部署間の情報共有や連携が活性化し、ナレッジ共有が進みました。
- 従業員エンゲージメントサーベイの「自分の意見が尊重されているか」という項目でスコアが改善しました。
-
成功要因:
- トップの明確なビジョンと継続的なコミットメント: 経営層が従業員参画の重要性を繰り返し発信し、対話会に積極的に参加したことが、従業員の信頼を得る上で不可欠でした。
- 多様な従業員を含む推進体制の構築: 一部のエリートだけでなく、様々な立場・意見を持つ従業員が意思決定や施策検討に関わったことで、施策の実効性と全社的な受容性が高まりました。
- 透明性と丁寧なフィードバック: 意見集約プロセスを公開し、採用・不採用に関わらず、理由を丁寧に説明する姿勢が従業員の信頼感に繋がりました。
- スモールスタートと成功事例の共有: 大きな変革を一度に行うのではなく、現場主導の小さな改善から成功体験を積み重ね、それを全社で共有することで、改革の機運を高めました。
- 推進事務局の強力なサポート: ボトムアップのアイデア創出やワークショップ実施には、推進事務局による運営サポートや各部署への伴走支援が不可欠でした。
他の組織への示唆
この事例は、大規模組織において働き方改革を全社的に浸透させるためには、単なる制度導入や技術活用に留まらず、従業員をプロセスに巻き込み、当事者意識を醸成することが極めて重要であることを示唆しています。
- 大規模組織特有の多様なニーズへの対応: 画一的な施策では難しい場合が多く、現場の声を吸い上げ、部署やチームの特性に合わせた柔軟な取り組みを支援する仕組みが必要です。
- 人事評価との連携: 従業員の参画度や、個人・チームでの改善活動の成果を、評価に一部反映させることも、動機付けとして有効な場合があります。ただし、評価項目や基準の設計には、公正性を担保するための慎重な検討が必要です。
- コミュニケーションの設計: 経営層と従業員、部署間、推進体制内の各レイヤーで、双方向かつ透明性の高いコミュニケーションを継続的に行うことが、信頼関係構築と円滑な推進の鍵となります。
- 推進体制の機能と役割: 推進委員会や事務局は、単なる調整役ではなく、現場の課題を理解し、アイデア創出を促進し、具体的な実行をサポートする実働部隊としての機能を持つことが求められます。
まとめ
大規模組織における働き方改革は、複雑で多様な課題を伴いますが、本事例のように従業員参画型のプロセスを取り入れることで、全社的な納得感を得ながら、実効性の高い変革を推進することが可能です。
改革推進の責任者は、トップのコミットメントを得つつ、従業員の声を聴き、現場の力を引き出すための推進体制や仕組みを設計・運用することが求められます。従業員一人ひとりが「より良く働きたい」という想いを形にできる環境を整備することが、持続的な組織力の向上に繋がるのです。
本事例が、貴社における働き方改革推進の一助となれば幸いです。従業員の参画を促し、共に未来の働き方を創造するプロセスをぜひご検討ください。