事例:大規模組織が新しい働き方に対応した教育・研修プログラムで実現した組織力強化 - マネージャー・従業員のスキル変革アプローチ
大規模組織が新しい働き方に対応した教育・研修プログラムで実現した組織力強化 - マネージャー・従業員のスキル変革アプローチ
働き方改革が進行し、リモートワーク、ハイブリッドワーク、フレックスタイム制など、多様な働き方が広まる中で、組織と個人のパフォーマンスを維持・向上させるためには、制度やツールだけでなく、そこで働く人々のスキルやマインドセットの変革が不可欠です。特に大規模組織においては、従業員一人ひとりの習熟度や所属部署の特性が多様であり、画一的なアプローチでは効果が限定的になるという課題があります。
本記事では、とある大規模組織が、新しい働き方に対応するために全社的な教育・研修プログラムを設計・導入し、組織全体のスキルアップと組織力強化を実現した事例をご紹介します。導入の背景、具体的な取り組み、直面した課題とその克服策、そして導入後の効果と成功要因について、詳しく解説していきます。
導入前の課題と目的
事例の組織では、全社的な働き方改革推進の一環として、リモートワークやフレックスタイム制などの新しい制度を段階的に導入していました。これにより、従業員はより柔軟な働き方が可能となりましたが、いくつかの課題が顕在化していました。
- 従業員側のスキル不足: リモート環境での効果的なコミュニケーション、時間管理、セルフマネジメント、デジタルツールの活用などに慣れていない従業員が多く、生産性の低下や疲弊が見られました。
- マネージャー側のマネジメントスキル不足: 対面中心のマネジメントに慣れたマネージャー層は、非対面環境でのメンバーの状況把握、目標設定・進捗管理、フィードバック、チームエンゲージメント維持などに苦慮していました。
- 組織文化の希薄化懸念: 部署やチーム間の偶発的なコミュニケーションが減少し、情報共有の滞りやナレッジのサイロ化が進む懸念がありました。
- 教育・研修の非効率性: 従来の集合研修では、多様な働き方をする従業員が参加しにくく、内容も新しい働き方に最適化されていませんでした。また、大規模組織ゆえに全従業員への展開に時間とコストがかかるという課題がありました。
これらの課題を解決し、新しい働き方のもとでも組織全体のパフォーマンスを最大化することを目的に、全社的な教育・研修プログラムの再構築が急務となりました。主な目的は以下の通りです。
- 新しい働き方に対応するための従業員・マネージャー双方のスキルセット強化。
- 新しい環境下での効果的なコミュニケーションとコラボレーションの促進。
- 従業員の自律性・主体性の向上と、マネージャーによる適切なサポート体制の構築。
- 変化に強い、柔軟な組織文化の醸成。
具体的な取り組みとプロセス
この組織では、教育・研修プログラムの再構築にあたり、以下のステップで取り組みを進めました。
1. 詳細なニーズ分析とプログラム設計
まず、全従業員とマネージャー層に対し、新しい働き方における具体的な困りごとや習得したいスキルに関するアンケートを実施しました。さらに、各事業部や部門の代表者、人事担当者で構成されるワーキンググループを設置し、部署や職種によって異なる固有のニーズを深く掘り下げました。
この分析結果に基づき、階層別・職種別の具体的なスキル要件を定義し、それに対応する研修プログラムモジュールを設計しました。プログラムは、以下の要素を組み合わせて構成されました。
- 全従業員向け共通モジュール: リモートワークの基本ルール、効果的なオンラインコミュニケーション、時間管理・セルフマネジメントの技術、情報セキュリティ、基本的なデジタルツール活用法など。
- マネージャー向け特別モジュール: 非対面での目標設定・評価・フィードバック、メンバーのエンゲージメント向上施策、リモート環境下でのチームビルディング、多様な働き方への対応と労務管理の基本など。
- 職種・部署別オプションモジュール: 特定の業務に必要なデジタルツールのより高度な活用法、部署固有のワークフロー改善、特定の専門スキルなど。
2. 多様な形式とコンテンツの開発
プログラムの提供形式については、大規模組織全体に効率的かつ柔軟に展開できるよう、多様な手法を組み合わせました。
- eラーニング: 共通モジュールを中心に、基本的な知識やスキルの習得を目的としたeラーニングコンテンツを内製・外注を組み合わせて開発しました。これにより、従業員は自身のペースで場所や時間を選ばずに学習できるようになりました。
- オンラインライブ研修/ワークショップ: コミュニケーションやチームビルディングなど、双方向性や実践的な演習が必要なテーマについては、オンライン会議システムを活用したライブ研修やワークショップを実施しました。少人数制にして、参加者同士の交流やグループワークを促進しました。
- 社内ナレッジプラットフォームの活用: 研修資料や関連情報を集約したポータルサイトを構築し、従業員がいつでもアクセスできるようにしました。Q&Aフォーラム機能なども設け、学習の継続をサポートしました。
- OJT支援ツールの導入: マネージャーがメンバーの育成状況を把握し、非対面でも適切なOJTを提供できるよう、目標設定・進捗確認・フィードバックを記録・共有できるツールの導入も検討されました。
コンテンツ開発においては、単なる知識伝達だけでなく、実践的なケーススタディやロールプレイング、具体的なツール活用デモなどを豊富に盛り込み、すぐに業務に活かせる内容とすることを重視しました。
3. 全社展開と浸透施策
プログラムの展開にあたっては、以下の施策を組み合わせ、全社的な浸透を図りました。
- 経営層からのメッセージ: 働き方改革とそれを支える人材育成の重要性について、社長や役員が全従業員向けに繰り返しメッセージを発信しました。
- 人事部門主導の推進体制: 人事部門が中心となり、各事業部・部門に推進担当者を配置し、部門ごとの進捗管理や課題対応を行いました。
- 必須受講・推奨・インセンティブ: 共通の基礎モジュールは全従業員の必須受講とし、マネージャー向けモジュールはマネージャーの必須受講としました。オプションモジュールについては推奨とし、一部手当との連動なども検討されました。
- 社内広報の徹底: 社内報、イントラネット、社内SNSなどを活用し、プログラムの内容、受講メリット、成功事例などを継続的に発信しました。
直面した課題と克服策
大規模組織での全社的な教育・研修プログラム導入には、様々な課題が伴いました。
課題1:従業員の受講時間確保とモチベーション維持
多様な働き方の中で、自身の業務と並行して研修時間を確保することが難しいという声が多く聞かれました。また、必須研修であっても、形式的な受講になりがちで、内容の定着が進まないという課題がありました。
- 克服策:
- オンデマンド化の推進: eラーニングコンテンツを拡充し、時間や場所の制約を極力なくしました。
- 業務時間内での受講推奨: 多くのモジュールについて、業務時間内での受講を明確に推奨し、実質的な拘束時間に対する抵抗感を軽減しました。
- 受講メリットの明確化: 個人のキャリアアップやチーム・組織への貢献にどうつながるのかを具体的に伝え続けました。
- ゲーミフィケーションの導入: ポイント制度やランキング表示など、楽しみながら学習できる仕組みを一部導入しました。
課題2:部署や職種による個別ニーズへの対応
共通モジュールだけでは、特定の部署や職種に特化した実践的なスキルニーズに応えきれないという課題がありました。
- 克服策:
- オプションモジュールの充実: 部署・職種別のニーズ分析に基づき、特定のスキルに特化したオプションモジュールを多数用意しました。
- 社内講師の育成・活用: 特定分野の専門知識を持つ社内人材を講師として育成し、より実践的で自社の業務に即した内容の研修を実施しました。
- コミュニティ形成の支援: 特定のテーマに関心のある従業員同士が学び合い、情報交換できる社内コミュニティ活動を促進しました。
課題3:プログラムの効果測定と継続的な改善
研修を実施しただけで終わらず、実際に従業員や組織の行動・成果にどうつながっているのかを測定し、プログラムを継続的に改善していく仕組みが必要でした。
- 克服策:
- 多角的な評価指標の設定:
- 満足度・理解度: 各モジュール受講後のアンケートで、内容の満足度や理解度を評価しました。
- スキル定着度: 一部モジュールでは、スキルチェックテストや実践的な課題演習を取り入れ、スキル定着度を確認しました。
- 行動変容: マネージャー向け研修については、360度評価や部下からのフィードバック、人事評価項目への反映などを通じて、実際のマネジメント行動の変化を測定する試みがなされました。
- 組織指標への影響: チームの生産性、従業員エンゲージメントスコア、離職率、特定の業務効率指標など、組織全体の定量的なデータと研修効果の相関分析を試みました。
- 定期的なレビュー会議: 人事部門と各部門の推進担当者が定期的に集まり、効果測定結果を共有し、プログラム内容や運用方法の改善点を議論する場を設けました。
- 多角的な評価指標の設定:
導入効果と成功要因
教育・研修プログラムの導入・運用により、この大規模組織では以下のような効果が見られました。
- 従業員のスキルアップ: 全体的にデジタルリテラシーやオンラインでの協働スキルが向上しました。特にセルフマネジメントスキル向上は、ハイブリッドワーク環境下での生産性維持に貢献しました。
- マネージャーのマネジメント力強化: マネージャー層の多くが、非対面でのコミュニケーションやメンバーの自律性を促すマネジメントスタイルを習得し、チームのエンゲージメントスコアに改善が見られました。
- 組織内のコミュニケーション活性化: ナレッジプラットフォームの活用や、オンラインワークショップでの交流を通じて、部門を跨いだ情報共有やコラボレーションが一部で活性化しました。
- 組織文化の醸成: 新しい働き方に対応するための前向きな意識が組織内に広がり、「変化に適応できる組織」という認識が醸成されました。
これらの効果をもたらした成功要因としては、以下の点が挙げられます。
- 経営層の強いコミットメント: 経営層が働き方改革と人材育成を明確に連動させ、全社的な重要課題として位置づけたことが、施策推進の強力な後押しとなりました。
- 現場ニーズに基づいたプログラム設計: 一方的な押し付けではなく、多様な現場の声を丁寧に吸い上げ、実務に即したモジュールを開発したことが、従業員の受講意欲と効果を高めました。
- 多様な提供形式の組み合わせ: eラーニングとオンラインライブ研修など、テーマや目的に応じて最適な形式を組み合わせたことで、大規模な展開と効果的な学習の両立が可能となりました。
- 効果測定と継続改善のサイクル: 定量・定性両面での効果測定を行い、その結果をプログラムの改善に継続的に反映させたことが、施策の実効性を高めました。
- 粘り強い浸透施策: 一度研修を実施するだけでなく、繰り返しメッセージを発信し、推進体制を構築するなど、組織全体に根付かせるための地道な努力が実を結びました。
他の組織への示唆
この事例から、大規模組織が新しい働き方に対応した教育・研修を成功させるための重要な視点が得られます。
まず、働き方改革を進める上で、単に制度を変えるだけでなく、「そこで働く人がどのように働き、成果を出すか」という視点が不可欠であり、それを支えるのが人材育成であるということです。特に大規模組織では、多様な従業員のレベルやニーズに対応できるよう、画一的ではない、きめ細やかなプログラム設計が求められます。
また、教育・研修プログラムは一度導入すれば終わりではなく、効果を測定し、継続的に内容や運用方法を見直していくサイクルを回すことが極めて重要です。組織や働き方は常に変化するため、教育・研修もそれに合わせて進化していく必要があります。
最後に、教育・研修は人事部門だけで推進するものではなく、経営層のリーダーシップ、各部門の協力、そして従業員自身の主体的な取り組みがあって初めて、組織全体のスキル変革と組織力強化につながるという点です。全社を巻き込むためのコミュニケーション戦略や浸透施策も、成功の鍵となります。
まとめ
本記事では、大規模組織における、新しい働き方に対応した教育・研修プログラムの導入事例をご紹介しました。この事例は、制度変更と並行して従業員・マネージャーのスキルとマインドセットを変革することの重要性、そしてそのためには現場のニーズに基づいた多様な形式のプログラムを設計し、効果測定と継続改善を行いながら、全社で粘り強く推進していくことが不可欠であることを示唆しています。
大規模組織で働き方改革を推進する担当者の皆様にとって、本事例が自社の人材育成戦略を見直す上での具体的なヒントとなれば幸いです。新しい働き方を組織の強みとするために、従業員一人ひとりの成長を支援する教育・研修の役割は、今後ますます重要になるでしょう。